大判例

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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)17号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。

二 引用例記載の発明、本願発明と引用例記載の発明との一致点及び相違点に関する審決の理由の要点2ないし4の摘示、本願発明の特徴に関する請求原因四1(一)、通電機構に関する同2(一)(1)、液供給機構に関する同(二)(1)の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第二号証(本願発明の願書に添付された明細書及び図面)、第三号証の一(昭和六〇年八月二三日付手続補正書)、同号証の二(昭和六一年一月二〇日付手続補正書)(以下「本願明細書」と総称する。)によれば、本願発明は、被加工体を加工テーブルに固定した状態で、被加工体に加工原理の異なる機械加工と電気加工(放電加工)を行うことができる複合加工装置に係るもので、放射状に放電加工用の電極及び複数の工具を有するターレツトヘツド付複合加工機や単一工具ソケツトによつて複数の工具の選択交換使用が可能なマシニングセンタ等の複合加工装置の電気加工用電極、電源装置、通電機構、加工液供給装置、液供給機構及び通電機構、液供給機構等に対する数値指令の制御等を備えたものに関し、当事者間に争いのない本願発明の要旨の構成を採択したものであり、成立に争いのない甲第四号証(特開昭四八―六九一七四号公報)(引用例)によれば、引用例も切削加工(機械加工)機能と放電加工機能とを単独の機械装置に組込み、被加工体を一度据付けることによつて、両加工を完了させる複合加工装置に関するものであるが、本願発明において択一的に対象とされている複合加工装置のうち、マシニングセンタに相当するものであることが認められる。

三 本願発明と引用例記載の発明の相違点について

当事者間に争いのない審決の理由の要点4摘示に係る両発明の相違点(1)、(2)を通電機構及び液供給機構ごとに摘示をすれば次のとおりである。以下においては、審決の相違点に対する判断の当否を右機構ごとに検討する。

1 通電機構に関する相違点

本願発明が、電気加工用電極の加工位置への割り出し取付位置において、その電極への通電接断が可能な通電機構を設けて電源装置の出力を被加工体と通電機構とに接続し、通電機構から右電極への接断を数値指令によつて制御するように構成しているが、引用例には以上の構成が明示されていない。

2 液供給機構に関する相違点

電気加工用電極の加工位置への割り出し取付位置において、加工用電極と被加工体との加工間隙に加工液を供給する液供給機構を設けて加工液供給装置を加工液槽と液供給機構とに管を介して接続するようにし、右加工液供給装置による加工液槽への加工液の急送急排や液供給機構を介しての加工間隙への加工液の供給を数値指令によつて制御するように構成しているが、引用例には以上の構成が明示されていない。

四 通電機構に関する相違点について

1 前掲甲第二、第四号証、成立に争いのない乙第四号証(機械用語辞典、昭和四七年九月三〇日(初版)株式会社コロナ社発行)によれば、本願発明の対象であるターレツトヘツド付複合加工機は、装置に放電加工用電極及び複数の工具が放射状に取付けられ、装置を旋回させることにより、必要な電極又は工具を被加工体のおかれた加工位置に移動し被加工体と対向させて加工を行い、加工終了後、装置の旋回により他の必要な電極又は工具を移動し、電極又は工具により加工を行うものであること、本願発明及び引用例記載の発明の対象であるマシニングセンタは、被加工体と対向位置にある単一工具ソケツトに、予め準備された放電加工用電極及び複数の工具から必要な電極又は工具を選択して取付けて加工を行い、加工終了後これを取りはずし、別の必要な電極又は工具と交換するものであることが認められる。

2 通電機構の相違点(1)に関する技術常識(一)<1>(審決の理由の要点5(一))は、当事者間に争いがない。

当事者間に争いのない通電機構に関する請求の原因四2(一)の(1)、(2)の事実及び本願明細書を参酌して、右技術常識の意義を検討すると、次のとおりでいる。すなわち、複合加工装置において、放電加工を開始するには、被加工体の加工位置に対向して設定された電極に電源から通電を接続し、加工終了後はこれを遮断する必要があるのは当然であり(右技術常識のうち「加工開始時に加工用電極への通電の接続をし、加工終了時にその通電を遮断し得るようにしたり」とはこのことを指す。)、通電の遮断後、ターレツトヘツド付複合加工機にあつては、装置を旋回させて、電極を被加工体の対向位置から移動し、他の電極又は工具を同位置におき、マシニングセンタにあつては、電極をソケツトから取りはずし他の電極又は工具と交換する。その際、電源と電極を導体(ケーブル)で結んで通電の接断を行うと、工具交換の都度電源からの導体を取付けたり取りはずしたりする煩しさがあり、常時電極に導体を接続しておくと、工具交換の際これを引廻すことになり作業が煩雑化する欠点があるため、当業者は別途に電源と電極の間に、通電の接断が可能な通電機構を設けて、電源の出力を同機構と被加工体に接続し、放電加工の開始時及び終了時に通電の接断を行つている(これが前記技術常識のうち、「電源装置の出力を被加工体やその通電の接続・遮断をする機構を介して加工用電極へ接続したりすること」を指す。)。

3 また、通電機構の相違点(2)に関し、審決の理由の要点6(一)摘示のとおり(技術常識(二))、通電による電極への接断が数値指令により制御されることが技術常識であることも当事者間に争いのないところである。

4 しかして、本願発明における通電機構に関する相違点(1)及び(2)の構成が引用例に明示されていないことは当事者間に争いのないところであるから、一致点とされた引用例の構成の複合加工装置(審決の理由の要点3)に、相違点である前記三1の通電機構の構成を付加することは、前記技術常識に照らし、当業者が容易になし得るところというべきであり、また、本願発明の特許請求の範囲の記載に照らし、その機構は右技術常識の示す域を超えるものでなく、右機構自体に格別のものを見出すことができないのであり、したがつて、これによりもたらされる効果も予測の範囲を出ないものである。原告主張のように、本願発明の通電機構が公知の「オン・オフスイツチの通電機構」と別に備えられたとしても、右の判断が左右されるものではない。

五 液供給機構に関する相違点について

1 成立に争いのない乙第一号証(放電加工技術便覧、昭和三八年一二月二〇日、日刊工業新聞社発行)によれば、放電加工装置においては、加工液を噴流させたり、吸引する機構、すなわち液供給機構により、加工液を電極と被加工体との加工間隙に供給し、同間隙に発生する加工屑を排除することが必要であり、管を介して右液供給機構を加工液供給装置に接続することも普通に行われていることが認められる。

2 しかして、液供給機構の相違点(1)に関する技術常識(一)<2>(審決の理由の要点5(一))は当事者間に争いのないところであり、前記乙第一号証により認められる事実、当事者間に争いのない液供給機構に関する請求の原因四2(二)の(1)、(2)及び本願明細書を参酌して、右技術常識の意義を検討すると、次のとおりである。すなわち、電極が加工位置にある被加工体と対向する位置に設定され、加工が開始されるとき、加工液供給装置と結ばれた液供給機構により電極と被加工体との加工間隙に加工液供給装置からの加工液が供給されるとともに、同装置から加工液槽に加工液が送られ、加工終了後加工液は同槽から同装置へ排出され(当然加工間隙への加工液の供給も停止される)、加工終了により電極は他の工具と交換される。その際、加工液供給装置と液供給機構及び加工液槽とを管により接続することは普通に行われているところである。また、電極と加工液供給装置の間に液供給機構を設けたのは、同装置と電極を直接連結したのでは、通電機構に関し説示したと同様の工具交換作業上の煩わしさや不都合が生ずるため、これを避けることを目的としたものということができる。

3 また、液供給機構の相違点(2)に関し、審決の理由の要点6´(一)摘示のとおり(技術常識(二))、液供給機構からの加工液の供給、加工液供給装置からの加工液の急送急排等が数値指令により制御されることが技術常識であることも当事者間に争いのないところである。

4 しかして、本願発明における液供給機構に関する相違点(1)及び(2)の構成が引用例に明示されていないことは当事者間に争いのないところであるから、一致点とされた引用例の前記複合加工装置の構成に、相違点である前記三2の液供給機構の構成を付加することは、前記技術常識に照らし、当業者が容易になし易るところというべきであり、また、本願発明の特許請求の範囲の記載に照らし、その構成は右技術常識の示す域を超えるものではなく、右機構自体に格別のものを見出すことはできないし、これによりもたらされる効果も予測の範囲を出ないものである。原告主張のように、本願発明の液供給機構が「ポンプに接続したパイプ等の加工液供給装置」と別に備えられたとしても、右の判断が左右されるものではない。

六 原告は、本願発明の通電機構及び液供給機構を引用例記載の発明のこれに対応する機構と対比し、両者の構成上の差異を強調する。しかし、審決も、本願発明における右両機構は引用例にその構成が明示されていないとしたうえ(この点は原告も争つていない。)、右の差異を相違点と認定し、一致点と認定された引用例の構成(これも原告は争つていない。)に右両機構を付加することは技術常識上容易に設計し得る事項であると判断しているのであるから、この点の判断の当否を検討すれば足り、原告主張のようにことさら構成上の差を論ずることは意味がないものである(もつとも、構成の差によりもたらされる効果の差を主張するとしても、本件は技術常識が進歩性否定の根拠とされているのであるから、技術常識を前提とする以上、効果に関する主張も意味がないのである。)。他方、前記四2及び五2のように、電極と工具交換作業の煩雑さを解決することは複合加工装置にとつての技術課題であることは明らかであり、このことは、引用例の装置においても変わるところがないものというべきである。

七 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、審決の判断に誤りはない。よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

放射状に複数の工具を有するターレツトヘツド付複合加工機や単一工具ソケツトによつて複数工具の選択交換使用が可能なマシニングセンタ等の複合加工装置に、前記工具と共に電気加工用電極を備えしめ、かつ電気加工用の電源装置と加工液供給装置とを付設すると共に、前記電気加工用電極の加工位置への割り出し取付位置に於て、該電極への通電接断が可能な通電機構と、被加工体を設置せしめる加工液槽と、前記加工用電極と被加工体との加工間隙に加工液を供給する液供給機構とを設け、前記電源装置の出力を前記被加工体と通電機構に接続し、前記加工液供給装置を前記加工液槽と液供給機構とに管を介して接続してなり、前記通電機構の前記加工用電極への接断・及び前記加工液供給装置による、前記加工液槽への加工液の急送急排・並びに前記液供給機構を介しての前記加工間隙への加工液の供給とを、夫々数値指令によつて制御してなる複合加工装置。

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